春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

声聞くときぞ

静寂を支配したのは、美しい男の一声。

闇色の瞳が、真っ直ぐに私を射抜いてくる。

何か、言わなければならないのに。

でも、私は声を持っていない。音がないの。何も伝えることが出来ないの。


「お前は人形か?何か言ったらどうなんだ」


深くて低い声が、私から自由を奪う。

直接何かをされたわけではないのに、身体が金縛りにあったように動かない。

言わなくちゃ。音を持たない言葉だけれど、このまま黙っているよりはずっといい。

意を決した私は、いつも通りにスマートフォンを取り出し、文字を打ち込んだ。


―――私のせいで、ごめんなさい。


そう打ち込んだ画面を、男性に見せようとしたのだけれど。


「柚羽っ…!!」


それは叶うことなく、私の手から滑り落ちた。

次いで、私の目の前にあるのは、男の人の綺麗な顔。


「――俺の前で携帯を弄るとはいい度胸じゃねぇか」


息が、しづらい。胸が、苦しい。

それは、男性が私の胸ぐらを掴んでいるから。
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