春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「(す、わ、くんが…)」


嗚咽を漏らしながら、途切れているも同然の言葉を唇に乗せる。

ただでさえ音にならない、誰の耳にも聞こえない声だというのに。


「晏吏が、どうした?」


りとはいつだって、一つも逃さずに聞いてくれるんだ。


「(神苑の、人たちに)」


「うん」


「(しゅう…集団、で……、)」


そこで、唇が震えて動かなくなった。

言わなきゃ。

諏訪くんは、神苑の人たちから暴力を振るわれていた、と。

伝えなきゃ、いけないのに。

たくさん助けてくれた諏訪くんを、助けに行かなきゃいけないのに。


「古織」


再び俯いた私の顎を、長く細い指が優しく持ち上げる。
導かれるように視線を上げた先には、綺麗な紺色の瞳が穏やかに揺れていた。


「晏吏は、どこ?」


囁くような、歌うような声音に、自然と唇が動く。
その動きから言葉を読み取ったりとは、私を引き上げて走り出した。

向かう先は、きっと、諏訪くんがいる場所。

そこで、諏訪くんは、たったひとりで―――


「晏吏っ…!!!」


ボロボロになるまで、

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