春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…あんなことを言うつもりなんてなかった」


息を吐くように、声を放った。それと同時に、堪えていたものもこぼれ落ちてしまった。

音もなく静かに落ちたそれは、無色透明の雫。


「…あいつ、自分を大事にしないんだよ。それで、ついカッとなって…」


その雫を追いかけるように、次々と溢れ出てきた。

何をしているんだ、俺は。泣きたいのは俺じゃなくてアイツなのに。連れてきたくせにひとりぼっちにしてしまった俺が、こうしている権利なんてないのに。

どうしてなんだろう。どうしてアイツばかり、辛い目に遭うんだろう。


アイツが一体何をしたんだよ。この世に生まれて、恋に落ちて、愛されて、妬まれて、恨まれて――あんなことが起きてしまった。

ただ、幸せになろうとしていただけじゃないか。

なのに、どうして。

どうして…。
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