春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

「ああ、璃叶。おはようございます。口の端によだれがついていますよ?」


「おはよう。可笑しいな、顔洗ってきたのに…って、話をそらさないでよ」


よだれなんか付いていないよ、と笑ってみせれば、りとはやれやれと肩を落とす。


「バレましたか。璃叶がニンジン嫌いなお子様だということを自慢していたのですよ」


「それ、自慢することじゃないでしょ。ニンジンなんてもう食べれるし」


「おや、そうでしたか!では今晩はニンジンのフルコースにしましょうかねぇ…」


「ちょっと、」


紫さんは悪戯に笑いながら、何事もなかったかのようにテレビを見始めた。

テレビ画面の向こうで、ニュースキャスターが今日の天気や気温を話している。

私はそれを耳に入れながら、大きく伸びをしてリビングを出た。


今日の天気は曇りのち雨。

折りたたみ傘を持って行かなければ、悲惨なことになるかもしれない。

銀色に縁取られた出窓から差し込む暖かな光に目が眩む。

こんなに眩しい光が降っているのに、雨が降るなんて信じられなかった。
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