春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
彼が姉の頭部に銃口を突きつけた瞬間、様子を見守っていた崇瀬組の男たちが、刃物を手に一斉に襲い掛かってきた。

維月さんは私を背後に庇うと、一人目を投げ技で、二人目を回し蹴りで吹っ飛ばした。


「危ないから下がっていて」


そう私の耳元で囁くと、内ポケットに滑らせた拳銃を再び手に取り、三人目の男に向けて銃を構えた。

諏訪くんとりと、聡美の元に駆け寄った私は、諏訪くんに支えられているりとの手を取った。


「(りとっ…、りとっ)」


「………」


目が、合わない。私の唇を読んでくれない。

それはそうだ、あんなことが起きたのだから。

でも、今はそんな場合ではない。紫さんがヤクザだったことにショックを受けている暇なんかない。一刻も早く、私の所為で巻き込んでしまったこの人たちを、ここから連れ出さないと。


「(りと、お願い、顔を上げて…!)」


何度呼びかけても、りとは顔を上げてくれなかった。それどころか、反応すらしてくれない。

どうするべきか考え始めた私の肩を、諏訪くんが叩いた。


「柚羽チャン、見て」
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