春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

春に知られぬ

ねぇ、維月。私を置いて、遠くへ行かないで。

あなたが寂しそうに笑う理由を、まだ聞けていない。

あなたが何者なのか、その口から聞けていない。

ごめん、って。どうしてなの？

どこへ行ってしまうの？

ねぇ、維月…―――


「―――…っ」


無意識に呼吸が止まった。

酸素が喉に詰まったような苦しさに襲われたが、視界に見知った人の顔が鮮明に映った瞬間、その息苦しさから解放された。


「――おはよう、柚羽チャン」


諏訪くんの艶やかな声が、再び意識を消しそうになる私を押しとどめた。

ようやく違和感なく空気を取り入れられるようになった肺で大きく息を吸い込めば、自分が置かれている状況が飲み込めてくる。


「璃叶、柚羽チャンの目が覚めたよ。お味噌汁温めよ？」


微かに首を動かせば、キッチンらしき場所で立っているりとの姿が見えた。その隣まで歩み寄った諏訪くんが、戸棚から取り出したお椀を片手に話しかけている。

ここはどこなのだろう。

維月と屋上に行って、私は…。