春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「初めから、何もかもを知っていたの?」


「…そうだよ」


逸らされていた目が、真っ直ぐに私を捉えた。


「君が転校してきてから、今日この日まで。僕は常に君を見張り、時に助け、維月さんに君の様子を報告していた」


世界が発色した。初めて会ったあの日から、今日この日まで彼らと過ごした日々が、ほどかれたフィルムのように頭の中を流れてくる。

転校初日、不慮の事故で紗羅さんに怪我を負わせてしまい、総長の夏樹さんに詰め寄られていた私を助けてくれた。倉庫で酷い目に遭いそうになった私を助けに来てくれた。

何度も、何度も手を差し伸べてくれた。たとえそれが、維月の命令だったとしても。

今思えば、秘密の欠片は散らばっていたのだ。



『…ごめん、ごめんね』


無条件で優しかった諏訪くん。



『…ごめん。晏吏がアンタを助けた理由は、今はまだ話せない。でも、いつかちゃんと、ちゃんと話すから』


この声を聞いてくれたりとも。

私が気付かなかっただけで、ふたりはいつだって…。
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