春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
つい十数分前まで小降りだった雨は、私が帰路に着いたときには大降りになっていた。


私に傘を貸してくれた諏訪くんは大丈夫だろうか。

空から惜しげもなく降ってくる大粒の雫と、笠越しに見える空を見ては、不安に駆られていた。



街灯のない真っ暗な道は、私の足音と雨音しか響いていなくて、なんだか怖かった。

早く帰ろう、と気持ちを逸らせながら、道を急いだのだけれど。


思わず足を止めてしまうものを、私は見た。


(え……)


もう間もなく家が見えてくる距離にある、住宅街のひとつの角。


その奥には空き地があり、この近隣に住む子供たちの遊び場となっているのだけれど。


そこから黒いスーツを身に纏う複数人の男たちが、声を上げて笑いながら出てきたのだ。


無視をして帰ればいい話なのだが、そうは出来ない会話が耳に入った。


それを聞いてしまった私は、男たちが車で去って行ったのを確認し、空地へと走った。
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