春を待つ君に、優しい嘘を贈る。


こっちって、何処?

どういう意味?

君は私に何を言いたいの?何を伝えようとしているの?

この世界にだけ現れる君は、そもそも誰なの?


『意味が、分かりません…』


久方ぶりに聞いた自分の声は掠れていて、酷く不安定だった。

ギュッと喉元を押さえ、何も答えてくれない彼を見つめ返す。


『貴方は誰なんですか?どうして私の夢に現れて、よくわからないことを言うんですか?』


『…………』


彼は答える気はないらしい。

曖昧な微笑みを浮かべたまま、愛おしそうに私を見つめてくる。


どうして?どうしてなの?

どうして君は、そんな表情をするの?


私は君のことを何も知らないのに。

名前すら知らない、他人なのに。


『せめて、会いに来てください…!』


この世界が嫌なのなら、あちらで逢いに来て。そうして、名前を教えて。

私の何を知っているのか、私にとってどういう人間なのか。

君にとって私は何なのかを、教えてほしいの。
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