春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

いづくも同じ

夏が終わった。
噎せ返るような暑さが、世界から過ぎ去った。

ほんの少し開いている窓から吹き込んでくる風を感じながら、物語を朗読している教師へと視線を移す。

季節は秋。
黒板に書かれている紅葉や銀杏、鈴虫の鳴き声が聞こえる時期だ。


「―――では、各自で俳句を書いてみなさい。明日の授業で提出してもらうからね」


教師の声に応じた生徒たちが、シャープペンシルを片手にノートと睨めっこをしている。

中には教師が出て行ったのを見て、世間話をしている者たちも居た。

私はそのどちらでもなく、ただただぼんやりと遠くを見つめる。

この教室という小さな世界のはみ出し者だ。


「…ねぇ、」


不意に聞こえた声で目を見開けば、目の前にはりとが居た。

そういえば、先週末に席替えをしてから、私の前の席になったんだっけ。

相変わらず教室ではニコリともしないポーカフェイスは、今日も何を考えているのか分からない。
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