春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

乱れそめにし

真っ暗闇の世界で、一人ぼっちにしないで。

私を置いて、遠くへ行かないで。

一緒に居るって言ったじゃない。

傍に居るって。ずっとずっと、傍に居るって。

約束、したのに。


「―――……は………」


誰かが、呼んでいる。

私の名前を呼んでいる。

でも、その声はあの人のものじゃない。

私を呼んでいるのは、あの人じゃない別の人。


「―――ゆ…………ん」


誰?

記憶がない、声も出ない、ヒトゴロシかもしれない私を呼ぶのは。


「―――…ず……ちゃ…」


誰なの?

どうして私を呼ぶの?

私の名を呼んでいるのは、この世界でただひとり。

ただひとり、あの人だけなのに。


「―――柚羽ちゃん…!!!」


「―――っ…、」


必死に私の名を呼ぶ声に引きずられるように、開くことを忘れていた瞼がうっすらと開いていく。


「柚羽ちゃんっ…、よかった…」


その声で見開いたままだった瞼を瞬かせれば、クリアになった視界いっぱいに、諏訪くんの顔が映っていた。
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