ヒロインの条件

「はい、どうぞ」
そう声をかけると、佐伯さんがドアをあけた。その瞬間、シャンプーの匂いだろうか、爽やかな匂いが流れ込んできた。

「風呂どうぞ」
そう言いながら正座している私を見て、佐伯さんはまた「ぷっ」と笑った。

「くつろげない?」
「そんなのことっ。 私にはもったいない部屋です!」
濡れた髪に、蒸気した肌の佐伯さんは、免疫の少ない私にはかなり刺激が強い。

「はい、着替え」
佐伯さんは手に持っていたスウェットを私に投げたので、私は中座姿勢でキャッチした。よそのうちの洗剤の匂いがして、鼓動が早くなる。

「洗面所に歯ブラシ置いてある。タオルも自由に使って」
佐伯さんはそう言うと、ニヤリと笑う。

「それから、俺が入ってこれないように、寝る時はここの鍵ちゃんと閉めて」
「は、はいっ」

私は勢い良く返事をすると、「おやすみ」と言う声とともにドアがしまった。静寂の中に、自分の胸の音だけが響いている。

「俺が入ってこれないようにって……」
私はスウェットを腕に抱えたまま、バタンとベッドに倒れこんだ。

「死んじゃう、何コレ。ヒロイン最高!」
そういいながら、身悶えた。
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