かおるこ連絡ノート
虎之助が、八郎の病を知ったのは、もう手の施しようもなくなった頃だった。
虎之助の目の前で、不意に苦しげに咳き込み、そして八郎は喀血した。
労咳なのだと、苦しげに微笑んで、言った。

穏やかに、笑いながら。
だが八郎は、決して虎之助に頼ろうとはしなかった。
いつだって、弱音を吐き、縋るのは、虎之助の方だった。

決して治らない、死に至る病を抱えて。
それでも八郎は、生き方を変えはしなかった。

幕府のために、命をかけて戦う。

どんなに幕府の弱体化が喧伝されようと、微塵も、心を揺るがさなかった。
そんな、八郎の生き方が、眩しかった。
許されるなら、一緒に戦いたかった。

八郎も一度は、虎之助に共に戦うことを勧めた。

「虎さん、あんた、幕府の味方になりませんか?」
「俺は別に、幕府の敵じゃない」
「でも、味方というわけでもないでしょう。いっそ幕府の家来におなんなさい。私が偉い人に掛け合ってあげます」

幕府につくということより、むしろそれを言う八郎の嬉しそうな様子に、虎之助は束の間師匠の言葉も忘れて、頷いた。
その瞬間の、八郎の笑顔は、きっと一生忘れられない。

「本当だよ?」

あの時。
あの時だけ、八郎は、虎之助に手を差し伸べたのだ。
ずっとひとりで戦ってきた八郎が、共に戦う相手として、虎之助に。


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