君に伝えたいこと





深い海の底をゆらゆら漂ってる
苦しくもないけど、月明かり…なのかな、遠く感じる、水面。月明かりに反射して綺麗に光っている。

歩…どこ?
お父さん、お母さん…。


見上げたそこから差し伸べられた一つの掌。


“雪ちゃん…”


伸ばした手を包まれて温かさが身体全体に染み渡り、涙があふれた。


佐々木さん…


“雪ちゃん…お願い。目え醒して。
俺、ちゃんと雪ちゃんに伝えなきゃ”


入れようとしても中々入らない力。

お願い、私の身体、言う事聞いて。

ちゃんと、私も佐々木さんに伝えなきゃ…。

突然、お腹に力を込める事が出来る様になって、ふわりと身体が浮いた気がした。

開けた視界に飛び込んで来たのは、無機質な白い天井とカーテンと…少しフワッとした、茶色い髪の毛。

少しずつ目線を色味のある方へとずらしたら、私の手をギュウって握りしめたまま俯いてる佐々木さんが居た。


「佐々木…さん?」

私の声に顔を上げた佐々木さんの眸が揺れる。
そのまま、目を細めて柔らかい笑顔に変わった。


「雪ちゃん…ありがとう。」
「ありがとう…?」

「うん。目え…覚ましてくれて、ありがとう。
俺、雪ちゃんに伝えたい事いっぱいあんだ。」


少し首を傾げたら苦笑い。

「…や、一個か?」

そのまま私の掌の甲に唇をそっと付けた。


その感触が優しかったから?

それとも

「雪ちゃん、好き。」


言葉が嬉しかったから?


それはわからないけど、頬を伝う涙が温かくて、それを拭ってくれる指先が柔らかくて、感じた幸せ。


ああ…私、もっともっと元気にならなきゃ。
もっと、もっと…佐々木さんと一緒に居たい。


そう、強く想った。


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