夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
第6章 父を求めて-前半-

(1)

【17歳の秋】

いつからだろう?
蝉の音は聴こえなくなったのは……。
別荘付近の木々たちは、葉の色を緑から赤や茶に染めあげて、季節の移り変わりを伝えてくれる。


静かな午後の休憩時間。
私は自室でいつになく真剣に机に向かって、”ある物”を眺めていた。

そう。
全てのキッカケは、ローザに見せてもらった”ある物”。

それは、一枚の写真。


写っているのは、短髪の黒髪で黒い瞳の男性。
優しそうに、穏やかに微笑っている私のお父さんの写真。

多分、お母さんと駆け落ちだったからかな。
私の家にはお父さんの写真が一枚もなかった。

……と、いうか。
私達の世界で、カラーの写真は今でもお金持ちしか持っていないだろうとても高価なものだし。
お父さんとお母さんの若い頃なんて、おそらく白黒の写真だって相当な品だから……。
一般庶民の我が家には、無くて当然な気もするんだけどね。
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