Kissしちゃう?
第九章
    9
「お疲れ様でした」


「ああ、お疲れ」


 その夜、僕はバイト先の焼肉店で店長夫婦から、残ってしまった肉類を使って作った賄(まかな)いの食事を出してもらい、それを食べ終えると、一言挨拶して店を出、夜の歩道を歩いた。


 さすがに秋が深まり、冬が程近いからか、辺りは真っ暗だ。


 おまけに夜なので、通りを行き来するのは、騒々しい暴走族のバイクぐらいのものだった。


 僕はまっすぐに前を見て歩いていく。


 一歩一歩踏みしめるようにしながら、歩き続けた。


 暗闇で目をじっと凝(こ)らしながら、だ。


 そして自宅アパートへと戻り、出入り口のキーホールにキーを差し込んで、開錠する。


 当然ながら一人の部屋で誰もいない。


 僕は天井灯を点けて水道の水を出し、汚れていた両手を石鹸を使って綺麗に洗うと、立て掛けていたグラスに水を一杯注いで、一息に飲み干した。
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