俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
……どこか懐かしい味がするそれは、とてもとても美味しくて、お腹よりも心が満たされるようで。

張り詰めていた気持ちが緩み、私の目からは自然と涙が溢れていた。


ひとしきり泣いて、サンドイッチも食べ終えたらいくらか気分が晴れてきて、挫けそうになっていた心に力が戻ってきたのだ。

今度会ったら、不破さんにもう一度きちんとお礼を言おう。それまで、もう少し頑張ってみよう。

そう思えたから、今の私がある。もしもあのまま立ち直れないでいたら、会社にも上司にもどんどん失望して、とっくに辞めたくなっていたかもしれない。

だから、不破さんは私にとって救世主みたいなもの。今日だって、失恋話を聞いてくれたし。

あのときといい今といい、私は死にそうな顔しか見せていないことが少々悔やまれるけれど。


「……美味しかったな、あのサンドイッチ。もう食べられないのか……」


ぽつりと独り言を呟き、柵に背をもたれて小さなため息を吐き出した。

なんとなく物寂しいけれど、また頑張らないと。せめてあと二年、できれば四年、彼が言っていた“いいこと”があると信じて。

スッキリしたはずの心に舞い戻ってきた虚無感みたいなものを無視して、私は彼の感覚とぬくもりが残る手をぎゅっと握った。




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