俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
そうしているうちに、すき焼きはいい感じに仕上がってきている。私が桃花の器に野菜やお肉を取り分け始めると、彼女がなにげなく言う。


「彼、麗のこと覚えてるかな」

「どうだろね。あのときすら、私の名前も覚えてなさそうだったからなぁ」


自分の器にも具材をよそいながら、四年前に記憶を遡らせる。

初対面のときに一度名乗っただけだし、不破さんから名前を呼ばれたこともなかった。きっと、“営業部の死にそうな顔した新人”くらいにしか認識されていなかったことだろう。

四年も経っている今、名前はおろか顔だって忘れられているほうが自然だと思う。それに……。


「覚えてたとしても、前みたいに気軽に近づけないよ。カリスマ社長!って感じのすごいオーラ出してるんだもん……お高そうなスーツなんか着ちゃってさ」


見慣れないスーツ姿や、以前にも増して頼もしい雰囲気からして、すっかり雲の上の人になってしまったな、という印象だった。もう立場が違いすぎて、気後れしてしまう。

手元に目線を落として卵を溶いていると、じっと私を見つめる桃花の視線に気づく。

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