俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
やると決めたそばから少々引っかかる確認をされ、ギョッとする。

あの桐原さんが三日で嫌になるって、いったいなにがあったんですか……。というか『忍耐力ありそう』って、私どれだけ逞しく見えるんですか……。


「まぁ、俺はあんた以外をそばに置くつもりはないんだけど。いい女だし」


一瞬心配になったものの、彼が口の端を上げてさらりと放った糖度高めのセリフによって、不安の芽はすぐに摘み取られた。

ドキリとして彼を凝視するも、ちょうどカウンターの向こうから頼んでいたビーフストロガノフが出され、話が中断する。

今のは冗談なのか、本気なのか……曖昧になってしまった。

四年前の不破さんは、『あんた、いい女になるよ』と言ってくれた。今、本当に彼の目にそう映っているのだとしたら、私もちょっとは成長できたのかも。

緩んでしまう唇を結んでお皿に手を伸ばそうとしたとき、社長がこちらに右手を差し出してくる。


「これからよろしく。有咲 麗さん」


握手を求めるその姿も四年前と重なり、胸がきゅっと締めつけられる感覚がした。

「よろしくお願いします」と軽く頭を下げつつ、遠慮がちに手を重ねれば、あのときと変わらない温度を確かめられる。

少々無骨で、職人らしさが残るぬくもりに触れられて、なぜだかとても嬉しくなった。




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