異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「死ぬなよ。今度はエヴィテオールの王宮治療師になったお前と再会することを信じてるからな」

 ハーブが入った小瓶が私の首にかけられる。

 ミグナフタ国の治療師の人員は元々少ないため、戦で損失させることはできない。なのでロイ国王陛下は援軍は出すが治療師の増員は出せないと明言した。

 月光十字軍に所属している治療師はわずか三十名のみ。その少人数で二万二十人の連合軍を診るのは厳しいだろう。でも乗り切らなくてはと、私は小瓶を握りしめて泣きそうになるのを堪えながら「約束します」と笑顔で告げたのだった。


 明日まで体を休めるように言われていた私は手持ち無沙汰で城の廊下を歩いていると、目の前からアスナさん、ローズさんがやってくるのが見えた。

「こんにちは」

 ふたりに挨拶すると、アスナさんがいきなり肩を抱いてくる。

「月光十字軍の紅一点、麗しの若菜ちゃんにこんなところで会えるなんてツイてるなー」

「いい暇潰しになりそうね。あんた、ちょっと付き合いなさいよ」

 ローズさんにも腕を掴まれ、どこかへとグイグイ引っ張られる。振りほどこうにも騎士であるふたりに叶うはずもなく、私はなぜか町に連れて行かれた。

 ミグナフタの城下町はお店の前や石畳の道に花壇が飾られており、建物は全てレンガ調でお洒落だ。かごいっぱいに鮮やかな花を入れた花売りの少女がいたり、木陰の下にあるベンチで老夫婦がサンドイッチを食べたりとのどかな場所である。

 アスナさんとローズさんは私を引きずるようにして連れてきたのは、町角の洋服屋だった。ガラスウィンドウからも細やかな花の刺繍が美しいドレスが見えて、私は首を横に傾げる。

「あのう、どうしてここに?」

「あんた、治療師の服しか持ってないでしょ。あたしが見繕ってあげるわ」

 なぜかやる気満々のローズさんが説明をしてくれたのだが、そういうことは城を出る前に言ってほしい。どうせ旅で服は汚れてしまうのだ。ここで服を買っても荷物になるだけだと言おうとしたのだが、アスナさんに問答無用で背中を押されてお店の中へと入る。

 カランカランッと軽快なベルの音が鳴り、店内に入って早々「じゃあ、これとこれとこれに着替えてきて」とローズさんからドレスを渡される。戸惑っていたら早くしろとばかりにローズさんに睨まれたので、私は観念して試着室に入る。それからは着せ替え人形のようにたくさんのドレスに着替えさせられた。

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