異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
エピローグ

 この世界にきて一年後の今日、待ちに待った継承式が行われることになった。それはつまり私と彼が公的に結ばれることを意味するわけで、正直言えば嬉しさ半分、緊張に伴う胃痛半分である。

「誓いの言葉のあとにシェイドの戴冠、それから来賓の挨拶……」

 ぶつぶつとスケジュールの確認をしながら、私はシェイドの部屋の中をうろうろと徘徊していた。それを苦笑いで見守っていた彼はついに「とりあえず座ったらどうだ」と椅子を勧めてくる。

「じっとしていると落ち着かないのよ」

 結い上げられた黒髪を手で撫でつけていると、隣にやってきたシェイドがやんわり腰を引き寄せてくる。

「珍しいな、若菜が緊張しているなんて」

「今日はそれだけ大事な日なの。私はあなたが王になる瞬間を願ってここまで頑張ってきたんだから、あなたを支えないとと思って」

 しいて言うなら授業参観に来た母親のような心境である。私はシェイドが戴冠する瞬間をずっと待ちわびていたからこそ、いざ本番を迎えるとなると心臓が口から飛び出そうだった。

「そっちの心配か。今日は女性にとって晴れ舞台だろう。戴冠の儀も大事だが、お前のお披露目はもっと大事だ」 

 私の回答を聞いたシェイドは呆れ交じりに苦笑する。神父様の前で夫婦の契りを交わすのも緊張の種のひとつではあるが、そこはそれほど不安はない。だって隣には愛する未来の夫がついていてくれるのだ。

「それにしても、この姿を皆に披露するのは気が進まないな」

 シェイドは私の姿を頭から足先まで眺めるようにして視線を動かす。

 今日の私は薄手の白モスリンで出来たウエディングドレスを身に着けている。ハイウエストでコルセットとパニエをつけないため、直線的なシルエットだ。簡素ながら葉模様のショールや裾に散りばめられた青い小花の刺繍が落ち着いた気品を醸し出している。

「え、似合わない?」

 不安に両手を握りしめると、シェイドは首を横にする。

「逆だ。美しいから他の男の目に晒したくない」

 困ったように笑い、シェイドは可愛がるように頬に軽く口づけてくる。くすぐったくて目を細めると、愛していると全身で伝えるように抱きしめてきた。

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