異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「み、湊くん!」

 九重湊。服装こそ違えど、彼と瓜二つの男の子がそこに描かれていた。私は驚愕しながら食い入るように絵画を見つめる。

「間違いない、やっぱり湊くんだわ」

「どういうことだ? 若菜はオルカのことを知っているのか?」
 
「私が診ていた患者だったのよ。余命三か月の癌患者で、私が看取ったの。そういえばあの子、ふたりのお兄さんがいたって話していたわ」

 今は遠くの地で暮らしていると言っていたけれど、まさか異世界だとは思わなかった。彼の家族構成を把握できていなかったので元いた世界にもいるのかもしれないが、こんな偶然があるだろうか。これは直観だけれど、湊くんが言ったお兄さんはきっとシェイドとニドルフ王子のことだ。

「特に二番目のお兄さんは半分血が繋がっていないのに、本当のお兄さんよりも自分のことを可愛がってくれたんだって嬉しそうに話してた」

「そんなことが、あるのか……だってあいつは殺されて……」

 初めは戸惑っていたシェイドだったが、やがて事実を受け止めるように何度か頷く。それから私の肩口に顔を埋め、静かに震える息を吐きだした。

「……だが、あいつが若菜のように異世界に飛んで新しい人生を歩んでいたのなら嬉しい。たとえ短い生涯だったとしても、若菜と出会えたあいつは幸せだっただろう」

 涙混じりの声だった。私は彼の背をあやすように撫でて、それから強く強く抱きしめる。彼の中には悲しみと喜び、色んな感情が複雑に渦巻いているだろうから寄り添ってあげたかった。

「私は彼を看取ったすぐあとにこの世界に来たの。だから、もしかしたら湊くん――オルカくんが私とシェイドを引き合わせてくれたのかもしれない」

 ううん、きっとそうだ。

 そう思うと私が看護師になったのも、オルカくんを看取ったのも、シェイドと出会って結ばれたのも運命だったように思える。

「幸せになろう、必ず。それが生かされた俺たちの義務だ」

 シェイドが私の手を引いて部屋の扉へ誘う。そして王宮の敷地内にある教会までやってくると、共にベルベットの真紅の絨毯の上を歩いた。

 参列者の席には政務官や貴族、エドモンド軍事司令官やシルヴィ治療師長、マルクなどの治療師の仲間や月光十字軍の兵の姿もあった。

 そして祭壇の前までやってくると騎士のアスナさんやローズさん、ダガロフさんが両脇に整列して温かい目で見守ってくれている。

「ここに夫婦の契りを交わさん」

 神父の声を合図に十字架の前で向かい合う。いつもの紺色ではなく真っ白な軍服に身を包む彼は、縦長の窓から差し込む黄金の光を浴びて輝いているように見えた。

 彼の手が私の腕に触れるのを合図に唇を寄せ合うと、触れる直前でシェイドが囁く。

「永遠の愛をお前に誓う」

 胸にこみ上げる喜びと、こぼれ落ちる涙。祝福の鐘と歓声を聞きながら、私は愛する人のくれる永遠の誓いを一心に受け止めるのだった。
                                             (END)
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