むかつく後輩に脅されています。
「あ、吉永。相楽から連絡があったよ。半休とらせてください、だって」
「え、ええ、わかったわ」

 もしかして、病院に行っているのか。思いの外、私が挟んでしまった足が重症なのだろうか? もやもやしているうちに、外回りの時間になった。会社を出て、取引先へと向かう。応接室に通され、書類を差し出した。

「部長、こちらが我が社の新しい商品で……」

 部長は私の話を遮り、

「相楽くん、今日いないの? 今度一緒に釣りする約束したんだけどさ」

 いつの間にそんな約束を。

「え、ええ……相楽は、少し体調が悪く、半休をとっておりまして」
「ええっ、大丈夫かな? どこが悪いの? 夏風邪が流行ってるからねえ。悪化しないといいけどなあ」

 部長は甥っ子を心配するおじみたいな顔をした。あの男は、男女問わず年上にやたらとちやほやされる。私には全く理解できないが、熟年の心をくすぐる何かがあるらしい。

「相楽も部長にお会いしたかったと落ち込んでおりました」
「後でメールするよ。あげたルアーセットの感想も聞きたいし」

 ルアーセットって……なかなか高額なはずだ。相楽は愛人か何か?
 ……いいかもしれないわね。50代と新人社員の恋。私がよからぬことを妄想していたら、携帯が鳴り響いた。

「はい、吉永です」
「あっ、先輩」

 相楽だ。

「今どこですか? 合流します」
「いいわ。一旦社に戻るから」

 私は通話を切り、部長に笑顔を向けた。

「それでは商品の説明をさせていただきます」

 部長と別れ、自社へ戻る。フロアに向かうと、相楽がデスクからひょこっと顔を出した。

「あ、先輩。おはようございます」
「!」

 私はギョッとした。相楽は全身傷だらけだったのだ。腕と足は包帯でぐるぐる巻き、デスクのそばには松葉杖が置かれている。端正な顔には、打撲のあとがあった。
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