幻獣サーカスの調教師
「……ラッド」

ルルはラッドへと歩み寄る。

ラッドの今の思いなど分からない。分かりはしない。

けれども、分からなくても良いと思った。

「私を食べたいなら、食べて良いわ。だから、逃げて生き延びて」

首輪が外れたラッドは自由なのだと、ルルは笑った。

そして、両腕を広げる。

「私はあなたの一部となり、あなたとずっと一緒にいる。約束するわ」

「……何を馬鹿な」

団長の怒りを堪えるような声が聞こえ、ルルは足を止める。

団長の手には、いつの間にか赤いボタンの付いた装置が握られていた。

あれは、ルルの首輪と腕輪の起爆装置。

「お前の命はワタシが握っているのだ。死に方を決めるのはワタシだ!」

「……」

団長の言葉にも、ルルは何の反応も示さない。

だが、団長は言葉を続ける。

「そんなにラッドと居たいのならば、一緒に爆弾で吹き飛べば良い!!」

「頭に血が上りすぎですよ?お客様も巻き込むつもりですか?」

「ふんっ。殺す方法など、いくらでもある。リュート!ノエン!」

団長は怒鳴り声でリュートとノエンを呼ぶと、剣を持ったリュートと刀を持ったノエンが団長の側にやって来た。

「「……」」

「命令だ。リュートはルルを、ノエンはラッドを殺せ!」

ノエンは抜刀の構えをとり、リュートは剣を構える。

明らかに強い二人相手では、女の自分など、簡単に殺されるだろう。

けれども、ルルは両腕を広げてラッドを庇うように二人の前に立ち塞がる。

「……行きなさい。ラッド」

『……』

今までに無い、静かな声でルルは呟く。

(ノエンさん……リュート)

二人は、自分とラッドを本気で殺すつもりなのだろうか?

それでも、ルルは引く気はない。

「行きなさい。……行きなさいラッド!!」

観客達も混乱している。今がチャンスなのだ。
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