憧れの彼と、イイ仲になりたいんです!
それでなくても一昨日から心臓が跳ねてばかりで、収集が付かなくて困っているのに。


「それだけ私達、杏のことを心配してきたのよ。
だって、中学時代のあの一件からこっち、杏は『恋なんてしない』とずっと言い張ってきたでしょ。
だから、ひょっとすると一生お一人様の人生を貫くつもりなのかと思って気に掛けてたの」


あー良かった、と安堵する円香には悪いけど、私はこの気持ちをまだ恋だとは認めてない。


「恋じゃないから。憧れてるだけだから」


そう、あくまでも憧れ。
坂巻さんのことを恋だと認めてしまったら、私は足が竦んで待ち合わせの場所にも行けない。


「まあいいよ、そう思いたかったらそうすれば。とにかく楽しんでおいで。そして私にも報告してよ」


行ってら〜と店の前で見送られた。
私は円香に「ありがとう」とお礼を言い、待ち合わせの場所へ向けて歩き出す。



(あーもう、胸が苦しくて仕方ない)


帯がきついとか、そういうのじゃなくて、心臓が弾み過ぎてどうにかなりそう。


(それにこの浴衣、無駄に少し派手だし)


じっと赤色の帯を見て思った。

< 90 / 206 >

この作品をシェア

pagetop