恋のコーチは期間限定
 専務が手配してくれた貸切の観光バスの前に続々と人が集まってくる。
 専務と関わりのある会社の内外の人々。

「美希さん!おはようございます。
 そちらの方が彼ですか?
 お噂はかねがね………。
 美希さんの後輩の小波柚です。」

「高坂蒼葉です。」

 外行きの顔で頭を軽く下げた蒼は特におしゃべりってわけでもないらしい。
 名前だけ言うと黙ってしまって会話を続ける意志は皆無なのが伝わって苦笑する。

 蒼はまぁ大丈夫だとして……。
 私は柚に小声で念押しした。

「学生ってことは秘密でお願いね。」

「分かってますって!
 ナツカワの新入社員ってことで。」

 大丈夫かなぁ。
 信用してないわけじゃないけどポロっと言っちゃいそうなのよね。

 不安な気持ちでいると蒼が自然に指を絡めて来てドキリとする。
 もちろん柚に目ざとく見つけられて冷やかされた。

「もう!ラブラブなんだから!
 私、同期の子達もいるので、そっちにいますね。
 お二人のお邪魔虫になりたくないので!」

 ラブラブって………。

「俺達、ラブラブですって。」

 蒼に耳打ちされて慌てて耳を押さえた。
 当の本人は涼しい顔をしている。

 絶対にわざとだ。敬語だし。

 恋人役が必要で、いや、今は『役』ではなくなったけど…………。
 そういうんじゃなくて!
 えっと、なんだっけ。








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