恋のコーチは期間限定
「ポーン、ルーク、ビショップ………。」

 ぶつぶつ言っていると説明書を取り上げられた。

「ちょっと!今、見てたのに。」

 Tシャツと短パンに着替えてきた彼は私の隣に座って二人の真ん中になるようにボードを移動させた。

「説明書を読むより対戦した方が覚えやすいですよ。」

「うーん。まだ動かし方も微妙なのに。」

「美希さん負けず嫌い?」

「もちろん。」

「そうこなくっちゃ。」

 楽しそうにそう言った彼が意外だった。
 負けず嫌いな女なんて可愛くないだけなのに。

「ほら。最初のポーンは2マス進めますよ?」

 白のポーンを進めていた私の駒をもう1マス進めて微笑んだ。

「よし。受けて立とうじゃないの。」

「へぇ。勝つ気でいるんだ。」

 敬語が抜けて少年みたいな顔に変わった彼にドキッとしつつ、ボード上の駒の動きに集中した。






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