幼なじみに襲われて
王子様
東城麻紗子はテーブルの向かい側に座っている自分の娘を見つめた。
特に食事について厳しく教えたわけではないが、相変わらず我が娘ながら綺麗に食べると感心する。私の友達も皆朱莉の食べ方を見てこれでもかと言うほど誉めるのだ。食べ方だけではない。歩き方や座っている時の姿勢、言葉遣い等全てが上品に見えるのだ。
ただ…容姿だけは誰からも、私が知ってる中では褒められたことがない。
格段朱莉がブスだということではない。
薄く茶色がかった髪は腰までで緩い天然パーマを一つに結んでいる。顔つきは平凡でこれといって目立つところもない。体つきも153㎝で小柄だが痩せてもなく太ってもいない。まぁ、とにかく普通なのだ。
これだけならなんともないのだが、原因は私達夫婦にあった。
私、東城麻紗子は元国民的アイドルで容姿には自信があった。そして、夫の東城聡は大手芸能事務所の社長。聡自信の容姿もとにかくイケメンで結婚当初は美男美女夫婦と騒がれた。そんな二人の間に産まれる子供はどうやったって注目される。
「はぁ~…」
思わずため息が出てしまう。そんな私を高校生にもなって全く化粧気がない朱莉は気にせずごちそうさまというと学校に行った。
自分の子供だから当然可愛い。でも、そろそろお洒落に目覚めてほしいとも思うのは可笑しいのだろうか。


母のため息を見て、私自身もため息をつきたくなる。

「おはよう、朱莉ちゃん」

「おはようございます、佐藤さん」

隣のおばさんに挨拶しながらも心の中は今日も真面目に優等生を演じなければならないのかと憂鬱になる。本当は高校生らしく青春というものを味わいたいのに…。いつも心の中で妄想するしかないのだ。

「おはよう!朱莉」

元気いっぱいに挨拶してきたのはクラスメイトの横尾美優ちゃん。入学式の時に声をかけてくれた以来友達だ。美優には今では何でも話せる。優等生を演じなくても大丈夫なのだ。

「おはよう、美優」

クラスに入ると今日も窓際の一番後ろの席に男女共にたくさんの人が集まっていた。もちろんその中心にいるのは、私の好きな人。
隣の席に座りちらりと横を見る。人の隙間から艶のある漆黒の短髪な髪が。今日も無造作にまとめられている。その髪を近くにいる違うクラスの女子が触る。

「さらさらだね」

我が物顔で髪を触るその女子は今の優の彼女で周りの女子が羨ましそうに見ていた。今回の彼女も黒髪のショートでモデル体型。周りの女子たちもそれに習ってみんなショートだ。

(影響力すごいな…)

そんな光景を男子たちは恨めしそうに見ているけど、多分優を嫌いな人なんていない。そんな人なのだ。私も優の好みが分かったときショートにしようかな…なんて思ったけど優本人にこの髪を褒められてそんな考えは消えた。

チャイムがなると隣は静になりはっきりと優が見えた。いつも通り物憂げな顔をしている。何を考えてるのか分からない。

だけど、私にとっては彼は昔も今も変わらず『王子様』なのだった。
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