ねぇ、泣かないでよ。



「あのっ、さ。」

「ん?」

「もう、教室なんだけど」




颯汰くんは、前のように自分の教室に行かず、私の教室に入ってくる。





「あれ?席替えした?」



先週、したばかり。



「愛美ちゃんとは近くになれた?」

「愛美は、向こう」



真ん中の列になった私。愛美は廊下側の列になった。



「和は?」

「え?、、ぁー。えっと」



さっきまで和くんって言えばあんなだったのに。



「愛美の前、かな。」

「そっか」



少し照れたようにえへっと笑うと

じゃっ!と何か引っかかるような物を置いて出ていった。



颯汰くんが軽快に運んでいる足は私とは真逆だった。








「何あれ。朝からキメェな」

「っ!、、」



ボソッと後ろから耳元に吹きかけられた低く柔らかい声に少しだけ背筋が伸びた。



「おはよ、陽ちゃん」

「お、、っはよ。和、くん」



私、何意識しちゃってんだ。



「仲直り、したの?」

「別に」

「ふーん。、、陽ちゃんてさ、」

「な、なに」

「男苦手でしょ」

「え”」

「大丈夫」



なにが。



「俺がその苦手無くしてやる」

「結構です」

「まあ、まあ。放課後、図書室で待ってるから」

「いや、図書室は」

「苦手克服には、何事にも恐れない!だから」




少し意地悪そうに笑う和くんを
よく分からない感情から



「わか、、た」

「よしっ。いい子」



つい受け入れてしまった。
和くんはそんな私の頭を雑に撫でる。



「もう、やめてよ」

「なに?陽ちゃんて、髪型とか気にする人?」

「気にする、、けど。皆見てるし、」

「あー」



近くにいた何人かがチラチラとこちらを気にしていた。




「キスした仲だし。別によくね?」

「よ、よくない」

「陽ちゃんは、ラッキーだと思えばいいよ。」

「ラッキー?」

「そ。」



昨日の辛そうな和くんは
今日は見えなかった。

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