ねぇ、泣かないでよ。

ごめんと嘘。

「あれ、こっち?」



颯汰くんの言葉にハッとする。



「あ、ぁあ!もう、ここで大丈夫」

「いや、でも」

「その、えっと」

「あれ。陽のお母さんじゃん」

「げっ」



急いで颯汰くんの背中を押して陰に隠した。




「どう、したの」


どう説明するか。



「もう、帰って」



祖母の店が微かに見えて、少し派手な服を着た母親が見えた。

再婚したとは言え。父親との北海道行きは延期となっていて、今だ祖母の家に来る。


最近になって疑ってしまう。




「陽?」

「ごめん。今日は、帰って」

「でも、雨」

「颯汰くん。お願い」

「じゃあ、傘。持ってって」



無理やり傘を持たせた颯汰くんは、鞄を頭に乗せて走っていった。

帰したのは私なのに。どこまでも優しい颯汰くんは、私にはとても辛く突き刺す。





「ごめん」



ボタボタと傘を打つ雨の音が

とても切なかった。




重たい足を引きずって母親のいるお店の前に向かう。




「陽ちゃん」

「ただいま」

「傘、あったの?玄関に置いてあったのに」

「颯汰くん。に借りた」

「そぅた、、月島さん家の?」

「ん。同じ高校なんだ」

「あら!なんて運命なのかしら」




運命か。

そんな綺麗なものなのかな。




「そう言えば。お母さん」

「ん?」

「お父さんの転勤ってまだなの?」

「行く気になった?」

「ううん。お母さんは行かなくていいの?」

「、、、行くわよ。直ぐにね」



母親は嘘をつく時髪を耳にかけながらそのまま耳を触る癖がある。

今、その行為が目の前にあって。私は知らないフリをする。



「そっか。」



ああ。そうか。

強がってる母親を見て見ぬふりするから、彼女が壊れていても気にもとめずにいられるんだ。



それ以上に母親に見向きもせず店に入り
祖母の手伝いをした。



「また、お母さんどっかに行ったのかい」

「知らない」



姿を突然消す母親にはもう

慣れた。
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