借金取りに捕らわれて〈番外編〉~日常~
「ちょっとあってな。手元にあったそれがなくなった。」


くっ…

思い出すだけで、あの時の何とも言えない気持ちが込み上げてくる。



「ちょっとってなんだよ。」


訝しんで武は眉を潜めた。


「ちょっとはちょっと、だ。深く聞くな。」


「お前がそこまで言うってことは、相等なことがあったんだな…それで?」


「で、その酒ってのが元々ここに大量に届いた酒のお裾分けで送られてきたもんだったんだ。
だからまだ余ってたら分けてくれって言ったら、あの爺さん取りに来いって言ってきた。ならここで飲んだ方がはえーなって思ってな。」



それに、明枝さんにも帰れって言われてたから丁度良かった。



「ようするに、爺さんに一人で会うのが怖かったんだな。」


「なわけないだろ。ちゃんと爺さんがいない日を選んだんだからな。」


「…いや、それぜってーお前怖がってるよな?」


「それはない。取り敢えず座れよ、早く飲もう。」



この話を切り上げるべく、台所から持ってきた一升瓶を軽く掲げて武の気を反らした。

ちゃぶ台には酒の肴も沢山用意してある。飲む準備は万全だ。



「おう!そうだな、早く飲もうぜ!」


だが武は言葉とは裏腹に、なぜか凄くゆっくり腰を下ろしている。


「……っ!」


「どうしたんだ?痔か?」


「じゃねーよ!昨日明枝さんにしこたま尻叩かれたんだよ!」


ああ、ヒロのことでか。


「それは自業自得だな。」


ヒロを危険な目に合わせたんだからな、同情する余地は微塵もない。


「ぐーの音も出ねーな…」


だが、あんなことをしでかしたが、武は元々悪い奴じゃない。武なりに反省はしているんだろう。


「残念だが、うちにはドーナツクッションはないからな。」


「だから、痔じゃねーよ!」


「分かった分かった、ほら飲めよ。」




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