180℃
「りり〜?ちゃんとゆきちゃんのお母さんに
お礼言っとくのよ?」
「わかってるって!桃ちゃんと渡しとくから」
「頼んだわよ!せっかくのお祭りなんだから少しは何か食べてきなさいね、まったく何も食べないんだから」
玄関で私の顔を心配そうに見つめるお母さん。
夏バテかしらねえと首を傾げるけど
ごめんねお母さん、失恋です。
大きな紙袋に新品の浴衣を入れて
片手には桃のはいった紙袋。
この姿で電車乗るのはちょっと恥ずかしいけど仕方ない。
「それじゃ、行ってきまーす」
この1週間一歩も出歩かなかった私が
1週間ぶりに家のドアを開けた。
あっちー
徒歩で10分の駅を目指して
ゆらゆら歩く。
少し日が落ちてきて、けど蒸し暑くて
夏のセミの音が変な感じにマッチしてる
これこそ夏の夕方って感じ。
浴衣の入った紙袋を肩にかけなおして
ちらっと電柱に目をやると
今日の花火大会の
チラシが貼ってあった。
2人で歩くはずだった道
なのになあ。
どこで間違えたんだろう。
.
『あのね花火大会!私の地元でねやるの!
瞬くん一緒いけたりしない?』
『行く!仕事あるかもしれへんけどたぶん大丈夫』
関西弁で4つ年上の彼氏。
笑うと顔がへにゃんってなって
身長がちょっと低くて
口は悪いし、たばこは吸うし
素行が悪いから先輩に怒られるし
だけど
チャラいって思われてるけど、
誰よりまっすぐな心を持ってて
浮気もしない、人の悪口を言わない
人の話をずっと聞いてくれて
受け入れてくれて
いろんな人から好かれるような
自慢の彼氏。
『アホやんりりなんしとん』
そう言いながら
私の方を見て笑う瞬くんは
ほんとに私の心の中の真ん中に
いつでもいて
いまでもいる。
.
それが急に
崩れた1週間前。
「りりごめん。気持ち切れた。」
通知音がなって
スマホを見ると
信じられない文字が
画面に映し出されていた。