子爵は新妻を独り占めしたい
エリックはやれやれと息を吐くと、
「姉さん、その話はもういいだろう。

彼女は俺の婚約者だ、いずれは妻としてウォルターズ家に迎える。

それでいいだろう」
と、言い返した。

エミリーは紗綾に視線を向けると、
「サーヤ、断るならはっきりと断りなさい。

別に断ったところで、あなたを家から追い出そうなんて思ってないわ。

それにあなたをここに住まわせることを決めたのは私なんだから」
と、言った。

(婚約者――エリックさんは、どうしてそんなことを言ったんだろう?)

紗綾はエリックの真意がわからなかった。

田辺に裏切られた出来事から、紗綾は返事をすることができなかった。

紗綾は深呼吸をすると、口を開いた。

「――少しだけ、考える時間をくれませんか?」
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