国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
あまり長居してしまうと怪しまれてしまうと言って、ミリアンはその実を受け取って城へ戻って行った。ミリアンの姿が見えなくなるまで手を振って笑顔で見送ると、ジェイスの表情がすっと冷めたものに変わった。

(まったくこの城の敷地は馬鹿でかいな。おかげでこうして警備の緩い所から忍び込めたけどさ……それにしても)

うまくいった。とばかりにジェイスが意味深にほくそ笑んだ。

(どうやら、この香の効果もあったみたいだしね)

ジェイスが懐から小さな麻の袋を取り出すと、無造作に木の陰にそれを投げ捨てた。

袋の中にはいくつかの薬草を調合させたものが入っていた。薬草は調合によって通常の意識以外の意識を生み出すいわゆる暗示状態にしてしまうものもある。ラタニア王国は法律で薬草に関しては厳重な規則が設けられている。万が一、こんな禁忌な薬草を持っているなんて知れたら王族とはいえども、即刻、入国禁止になってしまうだろう。永遠に。

ジェイスは今夜、調合した薬草の香を使ってミリアンを惑わせ、ラタニアから連れ出そうと考えていたが思わぬ展開となった。ミリアンがレイを憎んでいることを知り、ふと、ジェイスの頭にレイの暗殺計画のシナリオが思い浮かんだ。
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