国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
ミリアンが部屋に戻っていった後、レイは倒れた大木にハァとため息をこぼして座り込んだ。

(あの歌声は、いったいなんだ……?)

冷血国王と言われ、心は錆び付いているというのにレイは彼女の歌を聴いている間、すべての穢れが清められていくような感覚になった。額に手をあてがい、困惑する自分が滑稽だった。父が死んだ時でさえ、気を乱すようなことは一度たりともなかったというのに。

(竜のロザリオ、そしてあの歌……まさか、まさか)

いまだに信じられない気持ちでレイはせりあがってくる感情に、らしくもなく武者震いを覚えた。すると、後始末を終えたセルゲイが駆け寄ってきた。

「負傷した兵士は全員医務室へ移動させました。死者が出なかったのは幸いです。レイ様?」

いつまでも顔をあげないレイを怪訝に思ったセルゲイが名を呼ぶ。

「セルゲイ、ようやく見つけたかもしれないぞ」

「見つけた、とは……?」

「我がラタニア王国の天竜の加護を受ける者……だ」

「っ……!」

まさか、というような表情でセルゲイが身体を硬直させ絶句する。

次第に東の空が白み始め、ラタニア王国の長い夜が明けようとしていた――。
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