たとえ君が世界を嫌っても。
たとえ君が世界を嫌っても。

 「綺麗。」

 しとしとと優しい雨が窓を叩く。そんな音を聞いていた俺は、唐突にかけられた声に思わず声の主を見た。

 「なんだ? 急に。」

 問いかけても、彼女は普段の喋り方と同じく雑な態度で黙ったままだ。つまりは答える気は無いという意思表示。ならばそれに従うしかない。

 この部屋は、「白」だ。
 床も壁も、数少ない家具も、窓の外の空さえも、すべてが穢れ無き純白。

そして、今窓の縁に座り曇天を見上げる彼女も。

触れたら折れそうな華奢な体躯は病的な白さを誇り、それを包む裾の長いワンピースも染み一つ無い白。
 ありえないことに、腰に届くほど長い白い髪も、いつも眠そうに細められた白い瞳も生まれつきらしい。

 そうやって冗談みたいな奇跡で出来上がった白い楽園で、俺だけが唯一の黒い雑音。

 それでいい。だってこれは、俺たちが殺したいほど憎む「彼」への復讐だから。

 この部屋にふさわしい純白の瞳が、窓から離れたソファに座る俺をゆっくり捉える。

 黒いシャツに黒いズボン、髪も瞳も純日本人らしく何も混ざらない漆黒。俺は意識してこの部屋と対称で在ろうとしている。

 静かに交わった瞳。俺は、無言で首をかしげ彼女に続きを催促する。

 端正な顔立ちと無表情のせいで人形と見紛う彼女と目を合わせるのは、いつまで経っても緊張する。美しすぎる白瞳に引き込まれる錯覚。唇を噛んで、それに耐える。
 
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