はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
目を覚ますと、見知らぬ室内のベッドに横たわっていた。



見渡すと、ここが病院であることが分かった。



私だけしかいないのに、坂下の香水の匂いが一瞬したのは…気のせい?



それにしても、何で私がベッドに寝かされているのか分からなかった。



ボーっとする頭で考えてみるが、桜の木の下で坂下の姿が見えるのを待っていた後の記憶が無い。



もう一眠りしようと、目を閉じかけた時だった。



ドアが開いて、看護師に促されたのか誰かが入ってきた。



だけどそれは、待ち焦がれた“パパ”じゃなく…。



父だった。



「若菜ちゃん、病院の中で倒れたって聞いたけど、具合悪くて病院行こうとしたのかい?」



そうじゃ、ない。



だけど、坂下に逢いたいと思った…なんて言えるわけがない。



私はふと思いついたことを、父に聞いた。



「今日は、あの人の香水の匂いがしないね。」



「あぁ、麗子とは別れたんだ。

正確には、捨てられたって言うべきかな。」



「そっか…。」



それを聞いたら、自然と笑みがこぼれた。



「起き上がれるようなら、帰ろう。」



父が、私の手をとる。



いつもなら振り払うけど…今日は、なんとなくそのままにした。



父に手を引かれて、病院を後にする。



駐車場へ向かう途中、私は坂下の病室を見上げた。



だけど、相変わらず病室はカーテンがかかったままだった。



インフルエンザに罹った私は、しばらく坂下のもとに来れそうもない。



「若菜ちゃん、どうかした?」



父の問いかけに、私は



「ううん、何でもない…。」



そう答えた。






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