はつ恋【教師←生徒の恋バナ】
教室にバッグを置きに戻る途中、式典を執る先生が声をかける。



「桐生、復活したか!?

今日も休んでたら、送辞どうしようかと思ってたよ。

いやあ~、良かった。」



その声に振り向くと、その先生はギョッとした表情を見せた。



「顔色悪いぞ?

目も涙目になってるし…。

まさか、無理して来たんじゃないよな?」



顔色悪いのは、坂下の死を知ったからで…。



涙目なのは、坂下が私に会いたいと思ってくれていたのを知ったからだ。



「いえ…、大丈夫です。」



「なら良いが、明日頼むな。

それと、スカーフの結び方なんだが…。」



翠子が結んでくれた蝶結びを解いて、固結びにしろと?



「これは…。」



私は胸のスカーフを鷲掴みにすると、唇を噛む。



「あ、いや…良いんだ。

校則に、スカーフの結び方までは決められて無いしな。」



じゃあ…と去っていく先生の背中を、見送った。



蝶結びのスカーフは、翠子が結んでくれたから大事にしてるのもあるけど…。



他にも、理由がある。



あれは、父の不倫相手が坂下の奥さんだと知った時だ。



坂下の車で送ってもらってる最中、スカーフの結び方が変わっているのに気づいた坂下が



「可愛いですね。」



って、ほめてくれた。



それが嬉しかった私は、ずっとスカーフをそのままにしてる。



だから、結び直せって言われなくてホッとした。



教室に入ろうとした時、HRのために教室に向かって来る担任が視界に入った。



あの暴力事件以来、奴とは顔を合わせなくて良いようになっている。



とりあえず教室にバッグがあれば、出席のサイン。



私は机の上にバッグを置くと、担任と入れ替わるように後ろのドアから出た。



こんな習慣も、学年末まで…。



あと、ちょっとの辛抱だ。






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