湖にうつる月~初めての恋はあなたと
相原さんから缶ビールを受け取り「ありがとうございます」と言って缶を開けた。

開けるとプッシュッ!という小気味のいい音がする。

「あとさ、藤波専務が澤井ホールディングスの息子とのお見合い話、本当に進めて大丈夫か心配してたわよ。谷浦さんには素敵な彼氏がいるから断って下さいって言っておこうか?まぁ、この話断るのも何だかもったいないような気がするけどね」

そういえば、そんな話あったっけ。

これまた断るとなるとややこしい話だわ。

ビールのアルコール度数は低いはずなのになんだか今日は酔いが回りやすいのか思考力が働かない。

「澤井ホールディングの息子がさ、結婚は絶対しないとずっと言ってたのに、うちの会社に商談に来た時に谷浦さんに一目惚れしたらしくて彼女とならお見合いしてもいいなんて社長に言ったらしいのよ。すごくない?まぁこんな話教えちゃったら、谷浦さんもその気になっちゃうかしら?いずれにせよ羨ましいお話だこと!モテ期が到来だねぇ」

相原さんはいたずらっぽく笑うと私の肩をぐいと押してきた。

その話が本当だとしたら、私が澤井さんとちゃんと付き合う前の話だよね。

あの時は私にも女には興味がないって言ってたのに、本当にそんな風に私のことを思ってくれてたとしたらとても嬉しかった。

そんなにも思ってくれていたのに、私はなんてひどい言葉を澤井さんに投げつけてしまったんだろう。

「彼、今からでも許してくれるでしょうか」

缶ビールの表面についた水滴が幾筋も流れ落ちていた。

「まぁ今回は暴走しちゃったみたいだけど、いつもみたいに素直で正直な谷浦さんの言葉で自分の思いを伝えたら大丈夫じゃない?まぁ気持ちが落ち着くまでいつまででもうちにいてくれていいし焦る必要はないわよ」

「ありがとうございます」

親指を立てて笑う相原さんに今日この場所に来ることが出来たことを感謝せずにはいられなかった。






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