湖にうつる月~初めての恋はあなたと
高速を降りると、いつの間にかすっぽりと暗闇に包まれた街明かりが見えてきた。

車は街には向かわず、右折し山に入って行く。

山の中はさらに深い暗闇が続いていた。

「大丈夫か?」

暗闇が恐いのを知ってる彼が優しく問いかける。

「大丈夫です。澤井さんがいるから」

「ならよかった」

澤井さんはふっと口元を緩めた。

ウネウネと続く山道を静かに走っていくと、いきなり目の前が開けた。

「ここは?」

来たことがある。以前見たことがある場所だった。

森を抜けて開けた場所には静かな湖が横たわっている。

そして、その上に満月が浮かび、湖面にその姿を眩く反射していた。

「俺の思い出の場所」

彼はゆっくりと湖の前で車を停車した。

「実は、私もここには以前連れてきてもらったことがあります」

「誰に?」

澤井さんの目が少しとがったように見えた。

「あの、以前お見合いした相手」

「ああ、真琴が苛立って捲し立てたあの彼か」

澤井さんはそう言うと、フッと笑って湖の方に視線を向けた。

「今更ながら妬けるね、そんな奴に俺より先にこの場所に連れてきてもらったってことに」

もう一度私の方に向き直り、「真琴」とささやくとそのまま自分に引き寄せた。

湖面に映る月を見つめながら彼の胸の鼓動を全身で感じている。

「今日は満月だ。もう知ってるかもしれないけれど、満月が湖に映るのを見ながら願い事をすると叶うんだ。俺が小さい頃、大好きだった祖父にそう教えてもらった」

「はい」

耳に響く彼の声を目をつむって聞いていた。
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