湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「話に聞いてた以上にめちゃくちゃかっこいい」

「そ、そんなことより、早く藤波専務に連絡入れないと」

敢えてそんな亜紀に気付かないふりをしながら、秘書室に内線を入れた。

「藤波専務、すぐ来るって」

「わ、私、すごくドキドキして今もまだ手が震えちゃってます。あんな素敵な男性見たことない」

亜紀は完全にハートを射貫かれた状態だった。こんなんじゃお茶もまともに入れれそうにない。

「お茶、入れてくるね」

私は未だに呆然と座っている亜紀を残して給湯室へ立つ。

ふぅ。

小さく息を吐いて沸かしたお湯を茶葉に注いだ。

亜紀と澤井さんを会わせるのはなんだか嫌だった。だから、ホテルで澤井さんと出会ったことも亜紀には言えなかったのかもしれない。

どうしてかって言われると、そんな明確な理由はない。

だけど、もし澤井さんと亜紀がうまくいったらって想像したら、体が震えるくらいにつらかった。

だって、あの二人が並んだら、美男美女でとてもお似合いだと思ったから。

私はどうお化粧でごまかしたって、澤井さんの隣には似つかわしくない。

そんなことわかってるのに。

もしかして、これが嫉妬ってやつ?

私、澤井さんのこと好きになっちゃってる?まさかね。そんなはずはない。

湯飲みにお茶を注ぎ入れながら、自分の手が僅かに震えてるのに気付く。

お盆にお茶をのせて、澤井さんの待つ部屋に急いだ。

気を失ってしまうんじゃないかというくらいに胸がドキドキしている。

「失礼します」

ノックの後、ゆっくりとその扉を開けた。

奧のソファーに座っているであろう澤井さんの顔がまともに見れないまま、テーブルの前に立ち会釈する。

「どうぞ」

と言って彼の前にお茶を出す。

「・・・・・・谷浦さん、だよね?」

澤井さんの優しくて穏やかな声が私のすぐ耳元で聞こえた。
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