湖にうつる月~初めての恋はあなたと
海外赴任が決まったからってどうして別れちゃったんだろうって思う。

私だったら、好きになった相手がどこへ行こうと絶対着いていきたい。

もし、澤井さんが海外に転勤になってしまったら・・・・・・今は想像するだけでも恐ろしかった。

長期出張に行ってるだけでもこんなに寂しいのに。

いつも明るくてしっかりものの相原さんの横顔を見ながらそんなことを考えていた。

ホテルに到着し会場に入る。

さすが役員クラスの食事会とだけあって、部屋の雰囲気は結婚式場さながらだったし、料理もすばらしくおいしかった。

会の終盤、お酒が少し回って機嫌のいい藤波専務が私のテーブルにビール瓶を持ってやってきた。

「いつも受付ご苦労さま」

そう言いながら、私の空いたグラスにビールを注ぎ入れた。

「ありがとうございます」

私は藤波専務ににっこり笑うと、入れてもらったグラスを一気に飲み干した。

「ほほう。噂には聞いていたが、谷浦さんは結構強いんだね」

「そんな言うほど強くないです」

「全然顔色も変わってないじゃないか、もっと飲みなさい」

専務は上機嫌で更に私のコップにビールを注いだ。

「ところで、谷浦さんはお付き合いしている人はいるのかい?」

なかなか直球な質問だなぁと思いながらも「いいえ」と笑いながら答える。

「実はねぇ、今うちと取引をしている澤井ホールディングス社長の息子がなかなか結婚しないらしくて社長も困ってるんだ。谷浦さんは器量もいいし真面目だし、丁度いいお相手だと思うんだがどうだろう、一度会ってみないかね」

これって、もしかしてもしかすると澤井さんとのお見合いを勧められてる?

正面に座る亜紀がニヤニヤ笑いながらこちらを見ていた。



< 56 / 158 >

この作品をシェア

pagetop