湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「ちょっとちょっと、真琴!」



亜紀の声でハッとして顔を上げる。

「話はまだ途中だよ。さっきからボーッとしちゃってイケメン澤井さんのこと考えてたんじゃないの?」

「ち、違うよ」

私の前で楽しげに笑う亜紀のお陰で、深みにはまる一歩手前で引き上げてもらう。

「そういえば、亜紀もいい感じの男友達が出来たとか言ってなかった?」

話題を変えたくてレモンソーダーのストローに口を付けながら尋ねてみる。

「えー、真琴の幸せ絶頂話の後それ聞くぅ?」

亜紀は頬を膨らませて、上目遣いで軽くにらんできた。

「うまくいってないの?」

「まぁね。あいつにとって私はただの通りすがりだったのよ」

「そうなの?」

「本命にふられて落ち込んでたところに私が現れて気張らしに付き合ってた感じ」

「それはその彼から言われたの?」

亜紀は下唇を出して首を横に振った。

「はっきり言われたわけじゃないけど多分そうだわ。先月は結構連絡もあってデートだって何回かしてたのに最近全然連絡ないし」

「本人に確認してみたら?」

「えー、面倒臭いわよ。それで振られたらみっともないし」

「振られたらなんて言うけど、亜紀は結構彼のこと好きだったってこと?」

私はすかさず笑いながら突っ込んだ。

「真琴も言うよね」

そして二人で顔を見合って、吹き出した。

笑うってだけで不思議と心が軽くなる。気持ちが前に向いていくのは亜紀と笑ってるからだろう。

わからないままにしてるほど不安が増長することはない。

今の私がまさにそうだから。

亜紀の彼のこともきっと思い過ごしでありますようにと祈らずにはいられなかった。

例え恐くても、きちんと確かめないといけないこともある。

今日、澤井さんにあの写真の彼女のことを聞いてみよう。

グラスの下に溜まった甘酸っぱいレモンシロップを吸いながらそんなことを思っていた。


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