山猫は歌姫をめざす
公娼免除ということは“歌姫”本来の“舞台”だけに集中できるということだ。未優が望むかたちで“歌姫”になれる。

(娼婦にならなくても“歌姫”になれる……)

未優の心が、にわかに躍りだす。夢の実現が、その“地位”で果たされる。

「それに、あたしはなれるんですか……?」
「言ったろう? 別枠だって。特殊な“地位”なんだ。
まっとうに“歌姫”になれないあんたが、“歌姫”になろうって言うなら、『禁忌』の座に就くしかないって。
どうしてもあんたが“歌姫”になるっていうなら、アタシが言えるのは、それだけだよ」

思わず即答しかけた未優だったが、さすがに今回の一件──“歌姫”が公娼だと知らなかったこと──で学んでいたので、その答えをのみこんだ。

「すぐに答えなくていいさ。どっちにしろ、お嬢ちゃんは“歌姫”になるってことを、もっとちゃんと考えた方がいいだろうからね。

返事は一週間後にもっておいで。“歌姫”になることを決めたら、あんたは親元を離れてここで暮らすようにもなるんだ。
そういった点も、じっくり考えて結論をだした方がいい。

アタシの話は、以上だよ」
「──はい。ありがとうございました」

立ち上がって、未優は響子に頭を下げた。そんな未優に、響子は初めて優しい微笑みを向けた。

「……アタシは馬鹿は嫌いじゃないよ、お嬢ちゃん。あんたの本気を、アタシに見せとくれ。──良い返事を、期待してる」
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