山猫は歌姫をめざす

【5】誰かを『犠牲』にしても


       5.

(ってか、ここどこ……!?)

押さえ切れぬ感情のまま走り、本来なら“第三劇場”の真ん前のモノレールに乗ればいいところを通過し、ここまで来てしまった。

しかし、その、「ここ」は「どこ」なのだろう。ハニーシティであることは、確かだろうが。

つい今しがたまで、人の通りの多いところを走っていたが、今は人影もまばらだった。
ビルの谷間を人を避けながら行くのは、未優には窮屈すぎて、足が自然を求めた結果、ここにいた。

ベンチを見つけて力なく腰かけたとたん、携帯電話が鳴った。画面を見やれば見覚えのある名前。

「───もしもし、未優? 今、どこにいるの?」

薫だった。

初めて会った日、未優から強引に連絡先を訊きだすと、ようやく引き下がってくれたのだが───。
その日から毎日、昼夜問わずに何かしらのメッセージとコールがあり、正直なところ未優は、もう何年も前から薫を知っていたような気がしてしまっている。

(慧一が「ストーカーだろ、それは」って、あきれてたけど)

「……緑に囲まれてて、クレープ屋さんがあって───あ、ハトにえさやってる人がいる。
それから……いま、目の前を獣型の『虎』が通り過ぎて行った」
「未優、ふざけてないで、もっと建物とか……動かないものの特徴言ってくれる?」

あきれたような響きの薫の声に未優はうなった。
……ふざけてなど、いない。大真面目に周囲の様子を伝えたのに。
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