神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「私は、この世界のこともハクコのことも、まだよく解っていない。だから犬貴が、そんな頼りない私の【矜持(きょうじ)を護るため】にしたことも、理解は、できる。
でも」

そっと、犬貴の頭に手を置く。……扱うべきは、自分。

「これからは、私の意思を無視するようなことは、しないで。これは、主命」
「──はい」

厳しい口調で言いつける咲耶に、犬貴が低くうなずく。それを見届け、咲耶は犬貴と目線を合わせた。

「でも、さっき犬貴が、私を護ってくれようとしたのは、嬉しい。
……頼りない主で、ごめんね。ちゃんと犬貴に釣り合う主になるように、いろいろ学ぶから。
だから、これからもよろしくね」

わずかに見開かれた犬貴の眼が、おもむろに伏せられる。

「……仰せのままに」

それは、微笑みに、似て。
咲耶は口角をあげてうなずくと、犬貴に赤虎の屋敷への案内をするよううながした。
──【主としての】自分に足りないものを、少しでも補うために。




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