アシンメトリー
気持ちはメトロノームの様にいったりきたり、日によって感情は変わってはまた、ふりだしに戻る。

毎日あの人は、目では手が届く場所にいるはずなのに、心の距離はいつも遠く感じていた。
てを伸ばしても、絶対に届かないそんな私達とは別の世界にいるみたいな感覚に似ていた。

「好きです。」

ってあの人の前で簡単に口に出して言えたら、トドの詰まりがとれたみたいに胸の苦しみとため息をつく日々から解放されるのだろうか。

そして、そう出来るとしたら、どんなに楽なんだろう。

私は頭の中で何度も同じ悩みを繰り返して浮かべては答えがない事にため息をつく。


「かおる、どうしたん?悩み事?」

「別に、なんもないよ。」

休み時間中ずっと机に頬杖をついていた私。
それを見て話かけてきた友達に暗い声でそう言った。

「もしかして、好きな人でも出来たん?」

「うーん、別におらんし。」

何度も友達の同じ問いかけに私はまた、大きなため息をつく。

いたとしても、好きな人の名前など言えるはずがなかったからだ。

「もしかして、かおるが好きなんって田中君?」

「うん…」

質問も頭に入らず受け流して、生返事でそう答えたが、数分たった後私は冷静になりびっくりした顔をして友達に言った。

「えっ!?ちょっと待って!違う!違うって。」

「そんな焦るんが、ますますそうやん。かおると塾も一緒やし、クラス一年の時と今も一緒で、優しそうやいうてたもんな。一年の時クラスの係も一緒やったんやろ?」

そう笑顔で友達が私を見て言った。

なんでそうなったのかわからないが、私は否定も肯定もしなかった。

否定すればするほど、その答えに真実味が湧いたからだ。

だから、私の好きな人は、田中君と言うのが友達の中の問いの答えになった。

朝、教室に田中君が来る度に友達が興奮気味に私に話しかける。

愛想笑いと嘘で固めた。

別に特別な感情などないけど、周りはそういう身近な人を好きになるって言う答えが正解なのだとなんとなく知っていた。

私が感じている今の気持ちは絶対に守らなければならない秘密なんだと、子供ながらに思っていた。













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