副社長は花嫁教育にご執心
呆然としているうちにドタドタと足音が近づいてきて、やばい、と思った瞬間には、菜々ちゃんとやらが私の目の前にいた。
お人形さんみたいなフワフワロングヘアに、くりっとした愛らしい瞳。しかし、その瞳には涙がいっぱいに張り、私はじろりと睨まれた。
き、気まずい……今の話の流れからすると、私、彼女に天敵認定されているようだし……。
「あの……」
引きつった笑みで話しかけた私にかぶせるように、菜々ちゃんが叫ぶ。
「遊くんのこと、はやく解放してあげてください……っ!」
そして邪魔よと言わんばかりに私の肩にドンとぶつかって、玄関のドアを出て行った。
ああびっくりした……。遊太にあんな彼女がいたなんて。
動揺する胸をおさえつつ廊下に上がると、部屋の奥からは、申し訳なさそうに弟の遊太が出てきた。
「……おかえり。ごめんね、変なとこ見せちゃって」
私より少し背が高いくらいで、周囲からは双子のようによく似た姉弟だと言われる彼は、ふたつ年下の二十三歳。近くの役所で働く公務員だ。
「いや、別に平気だけど……っていうか、いいの? 追いかけたりしなくて」
一緒に部屋に上がりながら、寂しさを纏って少し丸まった背中に問いかける。