副社長は花嫁教育にご執心


しかしその紙が散っても、私の脳はすっかり文章を暗記していたために、刃のようなその言葉たちは胸に刺さったままだ。

明らかに、同僚の誰かが悪意をもってつくった文章。そのひとつひとつが、頭の中をぐるぐると行ったり来たりする。

以前久美ちゃんが“女の嫉妬は怖いから”と言っていたけど、そんな風に落ち着いて考える事なんてできない。

なんなのこれ……本当に、怖い。

「まつりちゃん、大丈夫……?」

久美ちゃんが気遣うように背中に手を添えてくれるけど、私は力なく微笑んで首を横に振った。

「これは……ちょっと、きついかも」

「そう、だよね……。許せない、こんなこと。きっと今までの嫌がらせの犯人と同じだよ。私、捜すの協力する。もう、野放しにできないもん」

正義感を滲ませて語る久美ちゃんだけど、私は正直そこまで強い心を持てなかった。ただただ怖くてショックで、今すぐ灯也さんに会いたいと思った。

「ありがとう久美ちゃん。……でもとりあえず、今日は早く帰ることにする」

「そっか……うん。それがいいよ」

「ごめんね、久美ちゃんにもいやなもの見せちゃって」

「そんなのいいよ。帰り、自転車でしょ? いつも以上に気を付けてね」

「……ありがとう」

私は震える手でなんとか着替え、施設のお風呂に入ってから帰るという久美ちゃんとロッカー室で別れた。


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