副社長は花嫁教育にご執心


「結婚って、やっぱり愛し合ってするものだよねえ……」

答えが返ってくるわけもないけど、二人の写真からは「そりゃそうだ」「当たり前でしょ」と聞こえてくる気がして、私はがくっとうなだれる。

いくら私が“まつり”でも、こればっかりは、自分の笑顔ひとつでどうにかなる問題じゃないよね……?

「どうなっちゃうんだろ」

他人事のように呟いてしまうのは、現実味がまるでないからだ。

設楽まつり、か……。語呂だけは、確かに悪くないけど。

なんて思いながら立ち上がり、キッチンの鍋を覗く。なかには私の大好物、遊太特製のカレーができていて、ふたを開ければ香ばしいスパイスの香りがした。

このカレーも、食べられるのは今日で最後かもしれない。じっくり味わって食べよう……。

これがマリッジブルーというやつなのかはわからないけれど、なんとなくセンチメンタルな気分で、私はひとりぶんのカレーをよそった。


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